ハイボールの作り方をゼロから考える
鮮烈な香り、キレのある味わい、爽快なのどごし。魅力あふれる「最高のハイボール」の作り方について、ウイスキー文化研究所認定のウイスキーエキスパートがゼロから本気で考えてみました。
ハイボールという飲み方が存在する意義
ハイボールという飲み方が存在する意義は、ハイボールについて本気だして考えてみたという記事で詳しく書きましたが、ようは、
香りの酒を、味わいと喉越しの酒に変える
という一点にあるのです。
ウイスキーは「飲む香水」と呼ばれるくらい、本来は香りに特化した酒です。それを、炭酸割りにすることで、喉越しと味わいの酒に変えるということなのですね。
具体的には、
- 炭酸がはいることでビールと同じような喉越しの良さ(ゴクゴク感)が生まれる
- 炭酸が胃壁を刺激することで食欲を増進させる
- 炭酸が口のなかをサッパリさせることで揚げ物などと合わせる
- 炭酸が入ることで激しい香りが立つ
- 度数が下がることで味わいを気軽に楽しむ
といった具合です。
ここで共通していることは、とにかく炭酸に意味があるということですね。
水割りではなくてハイボールにしたい、ということは、ようは炭酸を楽しみたいということなのです。
ハイボールの作り方のポイントは、1に炭酸、2に炭酸
ここまで見てきたように、ハイボールの作り方を考えるうえでの本丸は、やはり炭酸なのです。
ハイボールは、いかに炭酸を活かすか。これに尽きます。
つぎは、炭酸の特性を知りましょう。
炭酸の大敵は、
- 温度
- 振動
の2つです。二酸化酸素は水の温度が上がると溶ける量が減るので、温度が高ければ、炭酸はすぐに抜けてしまいます。また、グラスに注いで以降の工程で振動が加われば炭酸が逃げてしまいます。
ですから、ハイボールを作る際は、
- ウイスキー、炭酸水、氷、グラス、すべてを徹底的に冷やして炭酸に
- 炭酸を加える工程からはとにかく丁寧に作り、刺激を与えないこと
の2点が重要なポイントになります。
ハイボールの作り方 – 前工程
それでは、ここからハイボールの作り方を時系列でご説明しますね。
まずは氷の用意。
氷は、ハイボールを冷やし炭酸を逃がさないための冷却機能として非常に重要であるほか、溶けてハイボールを構成する水の一部になるので、氷の品質は非常に重要です。ポイントは、
- 不純物が少ないこと
- 手に持っても溶け出さないくらい冷たいこと
の2点です。コンビニなどで買ってきた氷でも良いですが、出力強めの冷凍庫でしっかり冷やしましょう。
良い氷がない場合は、自分で作るのもよいでしょう。
大きめの容器に水を入れて、冷凍庫に入れると、外側から凍ります。真ん中に不純物が溜まるのでそれを廃棄して再度水を入れてギリギリまで凍らせ、真ん中に残った不純物を捨てる。こうすることで純氷に近い氷ができるのですね。
次はウイスキーの用意。
ウイスキーは、度数が高いので冷凍庫に入れても凍りません。瓶ごと冷凍庫に入れて冷やしておきましょう。冷蔵庫から取り出した時に瓶の周りに霜が降りるくらいキンキンに冷やします。
最後に、用具を洗います。
ビールでもなんでもそうですが、用具が汚れているとすべてが台無しになります。ハイボールの鮮烈な香りは清潔な用具で作ることが前提です。香りは特に繊細なので、用具をきちんと洗いましょう。
スポンジは、料理用具に用いるものとは別にグラス用のものを用意すると、微細な油汚れも綺麗に落とせます。
またこのとき、お湯でグラスを洗うようにすると、汚れが落ちやすいだけでなく、乾きやすくもなるのでおすすめです。洗ったあとは清潔な麻布なので水分を拭き取りましょう。
もしジョッキを使うのであれば、このあと、冷凍庫に入れておいてもよいでしょう。(「うすはりグラス」など、プロ仕様の扱いが繊細なグラスを使う場合は冷凍庫に入れるのはよしましょう。)
ハイボールの作り方 – メイン工程
次はいよいよメイン工程です。ここまで前口上しておいて恐縮ですが、いろいろな流派がありますので、これは筆者が考えるひとつのやり方、といった程度に考えてくださると幸いです。
まずは、清潔なグラスを用意します。そこにぎっしりと氷を詰め込みます。理想的には、タンブラーグラスに大きなキューブ型の氷が2個はいるのがよいですね。
グラスを冷やせていなかった場合は、氷の角を落とすイメージで30回ほどグラスの中を回し、グラスを冷やしましょう。溶け出た水は捨てて、減った分の氷を追加します。
次に、タンブラーグラスの4/1くらいの高さまで、氷をよけながらウイスキーを注ぎます。
つぎは炭酸水。モタモタするとそれだけ材料に熱が入ってしまい、炭酸が抜けやすくなるので、手早く作るのがポイントです。
氷をよけるように、やさしくやさしく縁から炭酸を注ぎ入れます。タンブラーグラスの4/3ぐらいの高さまで入れましょう。4/1の空間を残すのは、そこに香りを溜めるためです。
最後は、全体を回すように縦に一回だけマドラーを通して完成です。ここで混ぜすぎるとせっかくの炭酸が一気に抜けてしまうので注意が必要です。
ウイスキー自体の香りにインパクトがない薄いウイスキーを用いている場合や、特別な清涼感がほしい場合はレモンやライムを絞るかけるのも良いかもしれませんが、いずれにしても炭酸が死んでしまわないように手早く行いましょう。この工程はかけても数秒にします。炭酸を入れたあとの一秒は非常に貴重なのです。
ここまで来るとあとは飲むだけです。
「天ぷら屋では、カラッカラで揚がりたての天ぷらは親の敵と思ってすぐに食べるのが粋」とされていますが、それと同様です。ハイボールも時間の勝負。供されたらすぐに目で楽しみ、鼻で楽しみ、ひとくち口と喉で楽しみます。
ハイボールが一番うまいのは、炭酸がはじけて直接ハイボールが鼻に届くような、とにかくできたてのタイミングなので、ひとくちめだけは急ぎましょう。
さて、ここまででハイボールの作り方の説明は以上になります。
本当はハイボールに合うウイスキーの選び方までご説明したかったのですが、だいぶ長くなってしまったので、別の記事でご説明します。
ウイスキーの選び方に困ったら、
- デュワーズ(アバフェルディ)
- ブラックニッカディープブレンド(シングルモルト余市)
- ジョニー・ウォーカー黒ラベル(タリスカー)
といったウイスキーをご用意ください。(カッコ内はキーモルトと呼ばれる、ブレンド元のウイスキーです。これがセットであると、スーパーハイボールという作り方が可能になります。くわしくはハイボールについて本気だして考えてみたの記事をご覧ください)
まずは手元にあるウイスキーでこのハイボールの作り方をためしてみてくださいね。きっと美味しいハイボールができるはずです。