冷たさが売りのブラックニッカ・フリージングハイボール。

ハイボールについて本気だして考えてみた

ハイボールについて本気を出して考えてみた

ウイスキーオタクにとっては、ウイスキーとは基本的にストレートで飲むものですが、あえて本気をだしてハイボールについて考えてみました。

「ハイボール」という飲み方が存在する意義は?

そもそも、ウイスキーとは、基本的にはストレートで飲むのが一番うまいのです。

たしかに、ウイスキーはトゥワイスアップ(1:1の水割り)にすることで、はじめて十分に香りが開くとか、40度を超える酒は舌の細胞を壊すからウイスキーは割って飲むものだとか、そういう理屈もあります。

一方で、ウイスキーはロマンと文化の飲み物です。そうした左巻きの理性ではなく、右巻きの感性で飲むものなのです。

度数が高く、贅沢な香りが詰まった琥珀色の海を貪るように嗅ぎ、その芳醇さをそのまま全身で味わいつくすのがウイスキーというものなのです。(暑苦しくてすみません)

日比谷バー有楽町店でのラガヴーリン。ストレートと頼むと、何も言わずとも、きっちりテイスティンググラスで、氷抜きのチェイサーをつけてくれます。なんと加水用のストローまでご提案してくれます。
日比谷バー有楽町店でのラガヴーリン。ストレートと頼むと、何も言わずとも、きっちりテイスティンググラスで、氷抜きのチェイサーをつけてくれます。なんと加水用のストローまでご提案してくれます。

それではなぜ、ストレート以外の飲み方があるのでしょうか。

ウイスキーはストレートで飲むのが一番美味しいのであれば、みんなストレートで飲めばよいはずです。この点を考えてみます。

そもそも「飲み方」には、その「飲み方」を採用する意義があります

たとえばトゥワイスアップ(1:1の水割り)は、ストレートに水を加えることで、

  • ウイスキーを分析的に楽しむこと
  • 味わいを楽しみやすくすること
  • ウイスキーにおける洋なしやフルーツのような香りを広げること
  • 度数を下げることで食中酒にすること

といった意義があります。

同じく、いわゆる「ロック」(オン・ザ・ロックスともいいますね)には、

  • 見た目に清涼感を出す
  • ウイスキーの香り立ちを抑える(低品質なウイスキーの悪い香りを消す)
  • 徐々に氷がとけてウイスキーが薄まることで度数を下げ飲みやすくする

といった意義があるのですね。

では、ハイボールにすることの意義は何なのか。ひとことで申し上げると、

香りの酒を、喉ごしと味わいの酒に変える

ということだと思うのです。

冷たさが売りのブラックニッカ・フリージングハイボール。
冷たさが売りのブラックニッカ・フリージングハイボール。

ウイスキーは「飲む香水」と呼ばれるくらい、本来は香りに特化した酒です。それを、炭酸割りにすることで、喉越しと味わいの酒に変えるということなのですね。

具体的には、

  • 炭酸がはいることでビールと同じような喉越しの良さ(ゴクゴク感)が生まれる
  • 炭酸が胃壁を刺激することで食欲を増進させる
  • 炭酸が口のなかをサッパリさせることで揚げ物などと合わせる
  • 炭酸が入ることで激しい香りが立つ
  • 度数が下がることで味わいを気軽に楽しむ

といった具合です。

ハイボールとの向き合いかた

ここで強調しておきたいことは、いずれも、「今日はウイスキーが飲みたいけど、どういうふうに飲もうかな」というより、「今日はハイボールが飲みたいけど」といったシチュエーションで求められるということです。

つまりハイボールとはそれがひとつのカテゴリなのですね。「今日はビールにしよう」「今日は日本酒にしよう」「今日はウイスキー(もちろんストレート!)」といったカテゴリーがあるように、「今日はハイボールにしよう」といったカテゴリで選ばれるものなのです。

じっさい、ハイボールを飲むにあたって、たとえば「ハイボールはボウモアしか使わない」といった人は多くないでしょう。

ウイスキーに詳しい方であっても、「今日は喉が乾いてるからハイボールも悪くないな。ハイボールを飲むのは決めた。さて次はどの銘柄にしよう?タリスカーのスパイシーさも良いし、ハイニッカの気軽さも良い。はたまたジム・ビームのバニラ感も捨てがたい・・・」といった具合に、銘柄に関しては気分に応じて使う銘柄を替えるのではないでしょうか。

ウイスキーを楽しむのではなく、ハイボールを楽しむ。

このサイトでは、こういう気持ちで肩肘張らずにハイボールに向き合います。

ハイボールの楽しみかた

さて、ハイボールを楽しむと決めたとして、どのように楽しめば良いのか。

まずは、「どんなときにハイボールを飲もうと思ったのか?」というところから向き合うと答えが見えてくると思います。

例えば、夏の風呂上がりにゴクゴクと喉を潤したいとき。

こういうときは、シングルモルトなどの高いウイスキーよりは、手軽な値段で手に入る国産のブレンデッド・ウイスキー(たとえばブラックニッカ・クリア)を選んで気兼ねなく飲むのが良いかもしれません。

清涼感を得るために柑橘類をしぼるのもいいかもしれないし、塩分補給を兼ねて縁を塩で飾る(いわゆるスノースタイルですね)のもいいかもしれない。

ちょっと工夫して、ミントや刻んだ紫蘇などのハーブをトッピングするのも、変わった香りがたって面白いですね。

炭酸だけでなく少しだけトニックウォーターを入れることで少し甘みを出す(ソニックというカクテルになりますね)のも、夏の疲れた体には嬉しいかもしれません。

例えば、食事と楽しみたいとき。

ビールもそうですが、炭酸が強いお酒は一般的には食前酒として用いられます。

ハイボールを食前酒として楽しむときは、とにかく量を飲みすぎないこと。食前酒は少量の炭酸で胃壁を刺激するから意味があるのです。ですから、ジョッキではなく、タンブラーのサイズで頼むのがおすすめ。これはビールでも同様です。

材料はグラス含めてキンキンに冷やし、強い炭酸を維持したまま丁寧に作り、なるべく早く飲みきるのがコツです。

銘柄は、香りが強すぎず、まとまりの良いウイスキーがおすすめです。例えば「角」やハイニッカなどが良いかもしれません。贅沢するなら、グレンリベットなどもよいですね。

一方で、ハイボールは食中酒として楽しむことも可能です。こちらも、量を飲みすぎないことがコツ。個人的にはジョッキで一杯程度がおすすめです。

冷えたハイボールをジョッキで何倍も飲んでいると内臓が冷えてしまうし、消化液が薄まり胃もたれの原因になってしまいます。食中酒としてハイボールを楽しむのは一杯だけにして、以降は日本酒やワイン、焼酎の濃い目のお湯割をちびちびと、といった楽しみ方が体に負担がかかりにくくおすすめですよ。

食中酒としてハイボールを楽しむさいの銘柄は、食事に合わせて決めるのが良いでしょう。たとえば海鮮料理なら、海の香りがするボウモアを使うとおしゃれですね。

燻製のものがあれば、タリスカーアードモア、もっと手に入りやすい銘柄でいうとジョニー・ウォーカー黒ラベルなどのスモーキーな銘柄に合わせるとぐっと食卓が豊かになります。

山菜などの山の幸であれば、森で樽熟成されるシングルモルト白州が合いますし、ジビエなどの臭みが強い肉料理などは、全方位の味わいが強いシングルモルト余市の濃いめのハイボールが合うでしょう。

例えば、バーでおしゃれに飲みたいとき。

始めて行くバーでの最初の一杯はジントニックが定番ですが、慣れたバーでは最初の一杯にハイボールを頼むのも良いでしょう。

ただハイボールをお願いしてもいいですが、銘柄まで指定するとスマートです。

あるいは、バーテンダーがウイスキーにこだわっている方であれば、ハイボールにあうオススメを銘柄を聞いてお願いしてみるのもいいかもしれませんね。

バーテンダーと仲良くなったら、ぜひ試してみたい、通なハイボールの楽しみかたがあります。それは「BARレモンハート」という漫画ではスーパーハイボールと呼ばれている、ちょっとおしゃれな飲み方です。

それは、ベースになるウイスキー銘柄のキーモルトを表面に浮かべる飲み方です。

もう少し詳しく説明します。

一昔前まで、ウイスキーといえば、ブレンデッド・ウイスキーと呼ばれる種類のものでした。たとえばジョニー・ウォーカー黒ラベルやシーバス・リーガルカティサークといった、日本で昔から飲まれていた銘柄は基本的にブレンデッド・ウイスキーです。

これらは、トウモロコシを主原料として作られるグレーンウイスキーをベースに、さまざまな蒸溜所で作られる大麦麦芽が主原料のモルト・ウイスキーを複数ブレンドして作られます。

もっと以前は、ウイスキーといえばモルト・ウイスキーで、個性が非常に強く、それゆえに一般市場に受け入れられず、ウイスキーはスコットランドの地酒に過ぎませんでした。

それが1853年ごろ、アンドリュー・アッシャーという商人が複数の蒸溜所のブレンドをはじめ、このころから、

  • 個性に乏しいがライトな味わいがあるグレーンウイスキー
  • 個性は強いがそのままでは飲みにくいモルトウイスキー

の2つをブレンドすることが一般的になりました。それがブレンデッド・ウイスキーと呼ばれるのです。(モルトウイスキーだけをブレンドする場合はブレンデッド・モルトと呼ばれます)

このブレンデッド・ウイスキーがイングランドの市場で大ヒット。イングランドでは一般的にワインが飲まれていたのですが、当時フィロキセラ禍でヨーロッパでのワイン生産量が激減し、食中酒に困っていたのがウイスキーの市場拡大を後押ししたのです。

それがウイスキーの歴史でいえばつい最近、1960年代に「グレンフィデック」がひとつの蒸溜所の原酒のみをブレンドしたウイスキーを売り出し、「シングルモルト・ウイスキー」という市場が拡大しました。日本に入ってくるのは1980年代くらいで、文化として日本に定着したのはここ20~30年ほどと言われています。

ちょっと話が横道にそれました。つまり、つい最近はシングルモルト・ウイスキーが一般的になっているものの、いまから150年前から、「ウイスキーといえば、複数の蒸溜所のウイスキーを混ぜたもの」だったということです。

ですから、日本で昔から飲まれているウイスキーはブレンデッド・ウイスキーなのですね。そこで、シングルモルト・ウイスキーという概念があとから入ってきました。

そこでうまれたのが、「だったら、ブレンデッド・ウイスキーと、そのブレンドの材料になっている蒸溜所のシングルモルト・ウイスキー(=キーモルト)を混ぜてみたら面白いんじゃないか」という発想です。つまりこれがスーパーハイボールなのです。

ブレンデッド・ウイスキーとキーモルトの関係は、たとえば以下の通り。

といった具合です。

では、ホワイトホースのスーパーハイボールを作ってもらう場合をイメージしましょう。

ホワイトホースの瓶。今もブレンデッドの有名銘柄として残る。
ホワイトホースの瓶。今もブレンデッドの有名銘柄として残る。

ふつうのタンブラーグラスで「ホワイトホースのハイボール」を作っていただいたあと、ラガブーリン16年を表面に浮かべるのですね。

横からみると色合いの差も楽しいです。香りの強いシングルモルトが浮かぶことで、香りも格段に良くなります

ラガブーリンのスモーキーな香りから期待する味わいが、きちんと地続きでホワイトホースのハイボールにつながり、見た目から香りから味わいまで、すべて楽しみつくすことができるのですね。

バーテンダーとの信頼関係ができたら、スーパーハイボール、ぜひ楽しんでみてください。

ちょっと長くなりすぎたので、ハイボールの由来の話や、美味しいハイボールの作り方については別の記事でご説明します!

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