ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイート

【稀代の傑作】ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイート

ブラックニッカディープブレンドは、ニッカウヰスキーの代表ブランド「ブラックニッカ」シリーズの限定銘柄。ニッカの十八番である新樽原酒をふんだんに用い、劇的に甘い香りが表現されています。非常に完成度が高いため、稀代の傑作銘柄といえるでしょう。

ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイートについて

ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイート
ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイートのボトル。特殊な反射をするラベルから、とってつけたような高級感が漂うが、それがニッカウヰスキーらしくて愛らしい。

「ブラックニッカ」ブランドは、2016年のブラックニッカ・ブレンダーズ・スピリットを皮切りに限定リリースを続けており、

に続く第5番目の限定リリースになります。

ブレンダーズスピリットは長期熟成モルト、クロスオーバーはピート&シェリー、アロマティックはビターと果実感を特徴にした一本、リッチブレンド エクストラシェリーはシェリー樽原酒を強調した一本でした。

今回のブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイートは、その名のとおり「ブラックニッカ ディープブレンド」の甘さを強調した一本。

名前から察するに、ブラックニッカスペシャルのカラメル感を強化した香りになるのでは、と想像しておりましたが、良い意味で期待を裏切り、ニッカウヰスキーの「特別な甘さ」を表現してきました。

ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイートの香りと味わい

まず香りから。とにかく強烈な甘い香り。それも果実感を伴うものではなく、もっと純粋な、ウイスキーが持つウイスキーらしい甘い香りが飛び抜けています。この時点で傑作が約束されたような素晴らしい出来です。

一般にウイスキーに含まれる甘い香りというと、

  • 果実香
  • フレッシュフルーツ香
  • はちみつ香
  • 花香
  • キャラメル様(クッキー様)
  • コーン様

といった方向性があります。

ふつうであれば、甘さを強調したブレンドにする場合、

  • シェリー樽やワイン樽などの果実の樽のブレンド比率を上げて果実香の甘さを強調する
  • バーボンのファーストフィル(1空き樽)のブレンド比率を上げて、ホワイトオーク樽のバニラ香を強調する

の2方向のいずれかに振り切るでしょう。

ところがニッカウヰスキーには別の手段がありました。余市蒸溜所宮城峡蒸溜所に貯蔵されたモルトのなかでも新樽の原酒のブレンド比率を上げたのです。

スコットランドでは、通常は新樽での熟成は行われません。

スコットランドの樽熟成ウイスキーは、もともとはシェリー酒をスペインから樽でスコットランドまで輸送していたためにふんだんにあった樽にニューポットを隠したことから始まっています。

オズボーン・ペドロヒメネス・1827
オズボーン・ペドロヒメネス・1827。手軽に手に入る激甘シェリー酒。ウイスキーとの地続き感がある。

シェリー樽という、もともと入っていた酒の影響を樽を経由して受け継ぐことで、刺激が強く荒々しいニューポットをまろやかで甘美な熟成酒に変えることがスコットランドのウイスキーのあけぼのでした。

こうした背景から、スコットランドの蒸溜所の多くは、EUの法改正によってシェリーの樽輸送が制限されたいまでも、安く手に入るアメリカのバーボン樽を輸入することで、一度熟成に使われた樽を確保しています。

※アメリカのバーボン・ウイスキーは新樽での熟成が法律で義務付けられているので、中古の樽が比較的安く手に入ります

バーボンの廉価銘柄、ヘブンヒル
バーボンの廉価銘柄、ヘブンヒル。日本の蒸溜所の熟成庫に行くと、ヘブンヒルと銘打たれた樽を多く見かけます

同じく、スコットランドのウイスキーを目指してきたジャパニーズ・ウイスキーでも新樽はほとんど使われていませんでした。

ところが、ニッカウヰスキーは例外的に、会社設立当初から新樽での熟成の試行錯誤を重ねていました。小松崎与四郎という樽づくりの名人を招き、北海道のミズナラなどの木をもとに新樽を作っていたのです。

余市蒸留所の貯蔵庫群。彫像子の間には水路がなく草が覆っている。
余市蒸溜所の貯蔵庫群。この中には新樽原酒も眠っているはず。

『竹鶴ノート』の記述によると、竹鶴政孝はすでにシェリー樽での熟成の素晴らしさは知っていましたから、あえて新樽を作るのは、原酒の幅を広げるためというより、海外製の良い中古樽が手に入る時代でなかったために次善の策としての目的があったのでしょう。

しかし新樽での原酒づくりは脈々と受け継がれ、余市蒸溜所の石炭直火蒸溜とならぶ、今のニッカウヰスキーの独自性の一つとして生き残っています。

石炭が投げ込まれる炉。正面だとものすごい熱気が来る。
石炭が投げ込まれる炉。正面だとものすごい熱気が来る。

その新樽の歴史が現代になって花開いたのがこの「ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイート」といえるでしょう。

バニラ、クッキー、キャラメルといった香りはこの新樽によるものと思われます。それらが46度のアルコールに乗ってパワフルに香り、他にない特別な個性を生み出しているのです。

さて、新樽の説明が長くなりすぎたので、そろそろ別の香り要素と味わいについても分析を続けます。

新樽由来以外の甘い香りとして、スペイサイド・モルトで感じられるような花、蜂蜜の香りがあります。これは多様な原酒を用いたブレンドの妙でしょう。そしてほのかなピートと比較的長期熟成された原酒によってビターなニュアンスを加え、香り全体にがっしりとした輪郭が加えられています。

そして味わい。これも驚嘆すべきクオリティ

おそらく樽由来のごく微量な糖による甘さを、穀物感と樽感が強いビターがまとめる高品質な味わい。ブレンデッドらしくまとまりが良く、ストレートですいすいと飲み進められます。一方で度数は高いので、鼻から抜ける香りの強さはシングルモルトに引けをとりません。

加水をすると、クッキーやフレッシュフルーツの香りがさらに強調され、香りの爆発といってもよいほど強烈に香りが開きます。ストレートでは若干の未熟成感がありましたが、加水するとその他の香りが広がるため、さらに飲みやすくなります。

ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイートの総評

ニッカウヰスキーの傑作である、フロム・ザ・バレルブラックニッカ ブレンダーズスピリットといった高品位な銘柄にならぶ、ブレンデッドウイスキーの稀代の傑作といってよいでしょう。

しかもこれが2000円程度で買えます。良心的な価格設定のニッカウヰスキーさんといえども、採算とれるのか心配になるほどの価格設定。ブラックニッカ ブレンダーズスピリット同様にすぐに手に入らなくなることが予想されるので、早めの確保をおすすめします!

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