ウイスキーノート

グアイアコール(薫香)

グアイアコールとはウイスキーの香りを構成する物質のひとつ。ヒトが嗅ぐとスモーキーな香りとして認識されます。

グアイアコールは、ピート由来でできる部分が多く、フェノール類らしいビター、スモーキーな香りがあります。

スコッチやジャパニーズ・ウイスキーに多く含まれ、バーボンやアイリッシュには多くは含まれません。スモーキーな香りの要因として考えると納得ですね。

さてグアイアコールは目立つ化合物ではあるのですが、ウイスキーに含まれる多種な化学物質のひとつでしかありませんでした。

ところが、「ウイスキーは加水をするとおいしくなる」という論文で取り上げられたことで、にわかに注目をうけます。

その論文はこちらです。

Dilution of whisky – the molecular perspective

論文を要約すると、

ということのようです。

つまり、度数が下がることで、エタノール溶解度が低い物質が気液表面に出てきて香りが出やすくなることが証明できたよ!ということを言いたいのですね。

ウイスキーは香水と同じで、アルコールに香り物質が多数溶け込んでいますから、アルコール度数が下がれば、ウイスキーの中に含まれるエタノール溶解度が低い重い物質が揮発していくのは自明の理です。

つまり、みんな体感的にも理屈でもわかっていることをあらためて論文で証拠づけてくれたということですね。

ところで、グアイアコールじたいには薫香があり、スモーキーな香りの要因になります。

じっさいにグアイアコールの試薬をピュアなアルコールの安いウイスキーに添加してテイスティングしたことがありました。

ここで面白かったのが、グアイアコールはピュアなアルコールに添加して香りを嗅ぐとスモーキーな印象が立つのですが、ウイスキーに添加するとそのウイスキーの甘い香りが引き立つように感じることです。

スイカに塩をかける要領で、対称的な香りが引き立つのかもしれませんね。

さて、あとは長い余談です。

高級アルコールと呼ばれる悪臭の原因になる物質は、グアイアコールと同様にエタノール溶解度が低いので、加水することで取り除けます。この性質に目をつけたのが摂津酒造時代の岩井喜一郎でした。

岩井喜一郎は、連続式蒸留機の粗溜党と精溜塔の間に加水によって高級アルコールを除く「フーゼルオイル・セパレーター」を実用化することで、摂津酒造にて高品質なアルコール製造に成功したのでした。

余市蒸留所内のウイスキー博物館にある、カフェ式連続式蒸留機の模型。中心上部にフーゼルオイルセパレーターがある。

すこし話がずれましたが、とにかくウイスキーと加水にはこうした深い関係があるのですね。

 

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