富士御殿場蒸溜所とは
1973年、白州蒸溜所と同じ年に設立された、キリンの所有する蒸溜所。主な銘柄は富士山麓樽熟原酒50°です。
富士御殿場蒸溜所について
富士御殿場蒸溜所は、以前はキリンシーグラムという合弁会社の所有でしたが、いまはキリンディスティラリーが独自に所有しています。
場所は富士御殿場にあり、富士山のクリーンな伏流水を仕込みに用い、清冽な香りと味わいの原酒を作っています。
設備の特徴として、モルトとグレーンの複合蒸溜所であることが挙げられます。
宮城峡蒸溜所や白州蒸溜所もグレーン製造設備がありますが、それらと異なるのは、カフェ式蒸溜機を用いていない代わりに、ダブラーとケトル、マルチカラムという3タイプのグレーン蒸溜器を持っている点です。
ダブラーはプレミアムバーボンに使われる?小規模の連続式蒸溜機で、非常に珍しいものです。ケトルはバッチ式のグレーン蒸溜機で、こちらは国内では唯一の設備だと思います。
グレーンの蒸溜器だけでなく、4基の単式蒸溜器にも特徴があります。もとはシーバスブラザーズ社が絡んでいたこともあって、ストラスアイラ蒸溜所のポットスチルと非常に似た形をしています。甘く香り高い原酒の製造にひとやく買っていると言えるでしょう。
富士御殿場蒸溜所への行き方
要約すると、JR富士御殿場駅の2番乗り場から路線バスで水土野バス停に降り、徒歩10分程度、といった具合です。
東京からJR富士富士御殿場駅に向かう場合は、電車か高速バスかの二択になると思いますが、個人的には電車をおすすめします。
というのは、高速バスが渋滞に巻き込まれて到着が遅れるリスクが高いためです。
私の場合、JR富士御殿場駅までに新宿から2時間程度で着くところが、渋滞のため到着に3時間ほどかかりました。予約していたツアーに完全に遅れてしまいます。
というわけで、高速バスを降りてすぐ、富士御殿場蒸溜所に電話し、ツアーの開始時間を遅らせてもらえないか電話しました。
今回はたまたま空きがあったため対応してもらえましたが、空きが無ければツアーに参加できず、まったくの骨折り損になってしまいます。
ともかくJR富士御殿場駅に着いたので、つぎは路線バスで富士御殿場蒸溜所に向かうわけですが、ここにも鬼門があります。
というのは、富士山が世界遺産に登録された影響か、路線バスの時刻表が全く機能しない程度に道が大混雑しているのです。
渋滞がなければ20分程度で着けるところが、50分ほどかかってしまいました。ヘタすると、またツアー開始の時間を変えてもらう必要がありましたが、ギリギリ間に合いました。
富士御殿場蒸溜所の最寄りバス停は「水土野」です。(直前に「水土野下」というバス停もありますがこちらは違いますので注意!)
水土野バス停を降りる前に、富士御殿場蒸溜所の場所を示す看板があるので、とにかく水土野駅に降りさえすれば安心して蒸溜所に行けます。
(ちなみに、1時間ほど歩けば富士御殿場駅に到着しますので、体力に自信のある方は歩いて行き帰りするのもありかもしれません。)
白州蒸溜所と違い、徒歩でも入口はわかりやすく、敷地に入るとすぐ案内があります。入り口は他の蒸溜所に比べるとかなり質素で、あくまで工場事務所といった佇まい。
敷地内左手の建物の入口すぐで手続きが可能です。
入ってすぐ気づくのは、少し古い病院や、古いビルで嗅ぐ、なにかの香りがすることです。これは建物の素材が出しているのか、工場ゆえの何かの排気によるものなのかわかりませんが、とにかく建物全体でところどころに不思議な香りがありました。(トイレの設備がエントランスのすぐ近くにあるので、その匂いかな?)
とにかく、香りを大事にしているブランドですから、空気清浄機などで清浄感を出した方がよいのでは、と少し思ってしまいました。白州蒸溜所はとにかく森の清澄な香りで満たされていましたから、とくにそう思うのかもしれません。
ともかく、待合所に案内されてツアーを待ちます。
富士御殿場蒸溜所の見学ツアー
ツアーは、まずは肝いりのシアターから。
プロジェクション・マッピングの技術を駆使した現代的な映像で、富士御殿場蒸溜所の歴史や特徴を学べます。確か2016年4月に導入されたばかりのフレッシュな設備です。
そもそもウイスキーの作り方とは、といった話から、富士山の地下を通って濾過された清冽な仕込み水や、キリンシーグラム社として各国の最新鋭の技術を用いて設立された富士御殿場蒸溜所の歴史などが学べます。
楽しみを削ることになるため詳しくは書けませんが、手の凝った演出が随所にあり、ちょっとしたアトラクションとして見ても十分に楽しめます。ウイスキーに興味がない人でも満足できるでしょう。
お客さんは私以外には家族連れとカップルばかり。数多くいいたお子さんのツアー参加者も、とても満足そうでした。(一人で来たらそれなりに浮いてしまうので、その点覚悟が必要です。)
さて、映像で全体像をお話されたあとは、具体的なところに入っていきます。まずは香りの説明です。
エステリーでクリーンなウイスキー作りを信条としているキリンウイスキーらしく、ツアーの構成からも、香りに比重をおいていることがよくわかります。
この香り体験エリアは、
- フルーツの香り
- 花の香り
- 樽や穀物の香り
- その他の甘い香り
などと分類されており、香りを分析することの楽しみを教えてくれます。
この設備は、おそらく独自に調合した香料を用いて作られているのだと思いますが、さすが化学に強いKIRINグループといった印象があります。
香りの次はポットスチルの説明です。
設立の際にシーグラム社による協力があったため、ストラスアイラのポットスチルに似ていて…といった話はほとんどなく、むしろグレーン蒸溜器の素晴らしさについて深く説明がありました。
こうしたことからも、この富士御殿場蒸溜所がいかにグレーン原酒に力を入れているかがよくわかります。
樽についてはすべてバレル(主にフォアローゼス)を使用しているということで、これは完全に初耳でした。ホグスヘッドやシェリーバットなどのサイズ違いがないぶん、管理は容易になるでしょうが、原酒の多様性が狭まるリスクもあるので、これは思い切った判断だと思います。
たとえば、比較的規模が小さい蒸溜所である信州マルス蒸溜所も、シェリーがつめられていたシェリーバットやワインがつめられていたバレルを使用して原酒を熟成させることで原酒の多様性を生み出し、限定生産ながらワインカスクフィニッシュの銘柄を出したり、また一般銘柄でも多様な原酒を使うことで味わいに深みを出したりしています。
また一般的には、樽と原酒の接触面積が大きいバレルは樽成分の溶出が短時間で出すぎる傾向があるので長期熟成には向いていないとされていますが、シングルグレーン18年といった長期熟成銘柄が出ていることから、何か工夫があるのかもしれません。
ひとつには、バレルエントリーが50°ということです。一般的には、スコッチ・ウイスキーではバレルエントリーは63.5°に調整されることが多く、またバーボンでも62.5°くらいですから、大きな差があるといえます。
スコッチで63.5°に調整されるのは、樽材成分の溶出の効率を最大化させるため、という話を聞いたことがあるので、50°で詰めるのは、あえて樽材成分の溶出を抑え、長期熟成を実現させる、という意図があるのかもしれません。
ともかく、蒸溜器エリアが終わります。
次は発酵槽ときて、最後に糖化槽の案内です。ツアーの順序が製造の順序とは真逆なので、それなりに違和感があります。(ほかのツアー参加者は混乱しているようでした。)
発酵槽、糖化槽ともにステンレス製で、中が見られるわけでもなく、いかにも工場といった具合の外見なので、とくに面白くはありません。いま考えると、白州蒸溜所のダグラスファーの発酵槽には見応えがありました。
このあと瓶詰め工程と、ちょっとしたクイズ、富士山の森を意識した通路(地味すぎて逆に驚く)などがあり、最後に立派なテイスティングエリアです。
富士御殿場蒸溜所でのテイスティング
富士御殿場蒸溜所のテイスティングエリアは2016年4月にリニューアルしたばかり。非常に清潔感のある場所で無料試飲ができます。
会場に入る際にチーズ味の柿ピー(これが美味しくて驚きました)が配られ、点呼のうえ準備された席に案内されます。
私は一人で行っていたので、カップルと相席に座ることに。ちょっと気を使います。席はいっぱい空いてるんだから、別のところに座らせて欲しかったなあ。
席についたら、まずバーカウンターにハイボールを取りに行きます。億劫に感じますが、作りたての美味しいハイボールを飲んで欲しいという意図なのでしょう。
その後、手元のハイボールを飲みながら、ガイドの女性からおいしいハイボールの作り方の説明を受けます。ジョッキに少なめの氷を入れてウイスキーを注ぎ、30回ほどステアして氷を溶かしながらウイスキーをなじませ、後から氷を避けるようにしてゆっくりと炭酸を注ぐというもの。
オフィシャルなレシピで、柑橘やミントといった香り要素を添加しないところに、ウイスキーの香りのクオリティへの自信を感じ、非常に好感を持てます。
もっとも、リニューアルされる前も今も、富士山麓樽熟原酒50°はストレートで香りを楽しむのが一番おいしい飲み方だと思います。こうしたツアーの無料試飲でハイボールをすすめるのは、マーケットに合わせた結果なのでしょう。じっさい、ハイボールにしても美味しいことには変わりない銘柄です。
そのあとは、ロバート・ブラウンと富士山麓のどちらかをストレートでもらい、自分で氷や水、炭酸を入れて好きに飲むことができます。無料ではここまで。席にも時間制限があるので、あとは買い物をして終わりです。
有料試飲をお願いすると、専用のカウンター席に案内され、テイスティンググラスで限定銘柄を味わうことができます。
こちらは時間制限がないので、ゆっくり楽しめます。(ただし、蒸溜所自体が16時30分に閉まるので、ツアーの時間次第ではゆっくり飲むことができない場合もあります。)
ここでは、
- 富士御殿場ピュアモルト
- 富士山麓シングルモルト18年
- 富士山麓シングルグレーン25年
の三種が味わえる蒸溜所セットを注文。どの銘柄も素晴らしい品質で、驚嘆しました。各銘柄については、別途記事にする予定です。
最後は、売店エリアでおみやげを物色。蒸溜所限定銘柄は非常に高く、なかなか手が出ず。仕方なしに、職場へのおみやげのみ買って帰ることにしました。
ウイスキー以外には、クリアファイルやタオル、うすはりグラスやコースターなど、小物も充実していますので、ただ見て回るだけでも非常に楽しいです。
これでツアーは終了ですが、屋上にはちょっとした展望台があったり、ちょっとした森のイベント広場があったりと、ツアー以外にも楽しめる要素は少ないながらあります。
ツアーの時間より早く着きすぎて暇、という場合は、有料試飲エリアで声をかければツアーの前から1、2杯ほど飲んで時間を潰すことができるかもしれません(未確認です)。それ以外は、正直なところ、まとまった時間を潰せるところは蒸溜所内にはありませんので、その点は注意が必要です。
富士御殿場蒸溜所の見学まとめ
- JR富士御殿場駅までは、渋滞がないぶん高速バスより電車の方が無難。
- JR富士御殿場駅から、蒸溜所の最寄りの水土野バス停までは50分ほどかかる場合も。
- ツアーは見どころが様々ありウイスキーオタクでなくとも楽しめる。
- 有料試飲すると時間を気にせずゆっくり楽しめる。
富士御殿場蒸溜所、楽しいところでした。おすすめです!
富士御殿場蒸溜所の基礎情報
名称 | キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所 |
創業 | 1973年(白州蒸溜所と同年) |
所有者 | キリン |
HP | キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所 – キリンビール |
設備 | ストラスアイラを踏襲したポットスチルが2基。 グレーン蒸溜器はケトル型、ダブラー型、マルチカラム型の3種。 |
特記事項 | 樽詰め度数は50度。すべてバーボンバレル。 多様なグレーン原酒の製造。 |
住所 | 〒412-0003 静岡県御殿場市柴怒田970 |
アクセス | JR御殿場駅より路線バス。駅の富士山口から、 富士急行バス ターミナル2番線で「河口湖駅・富士学校」方面の 「水土野」で降りる。 (水土野下ではないので気をつけましょう) |