白州蒸溜所とは
白州蒸溜所とは、山梨県の南アルプスに位置する、サントリー社が所有する蒸溜所。サントリー社のモルト原酒蒸溜所としては二箇所目。
白州蒸溜所の基礎知識
白州蒸溜所は、キリンの富士御殿場蒸溜所と同じ1973年の設立。1923年の山崎蒸溜所の着工から数えて50周年となる年でした。標高は700mと高い場所にあり、清澄な空気と水、そしてアカマツの森に囲まれた自然豊かな場所で高品質なモルト原酒、グレーン原酒が作られています。
白州蒸溜所の歴史年表
簡単に、白州蒸溜所の歴史をまとめます。
西暦 | 出来事 |
1973 | サントリーウイスキー50周年(山崎蒸溜所の着工から)を祝して白州蒸溜所が設立。 |
1989 | 「響17年」の誕生 |
1992 | 「白州12年」の発売開始 |
2010 | グレーン・ウイスキー生産設備導入。 |
2013 | グレーン・ウイスキー生産設備の本格稼働。 |
白州蒸溜所の見学旅行
白州蒸溜所への見学旅行は、2016-05-30(月)。転職時の有給消化期間を用いた旅行です。ちなみに、この前日は信州マルス蒸溜所の見学に赴いています。
信州マルス蒸溜所の最寄りの「駒ヶ根」駅(今回は「大田切」駅を使いましたが)から温泉で有名な「上諏訪」駅まで電車で移動、上諏訪の民宿で一泊。
その翌日、「上諏訪」駅から中央線を使って、白州蒸溜所へのバスが出ているらしい「韮崎」駅まで向かいました。
上諏訪駅から「小淵沢」駅へ
白州蒸溜所の素晴らしいところは、土日祝日には「小淵沢」駅からの無料シャトルバスが運行していること。
一方で、シャトルバスのない平日にはそれなりの不便を覚悟しなければなりません。といっても、「小淵沢」駅前にタクシー営業所があるのでタクシーを使えば問題ないのですが、貧乏旅行の身では極力節約したいもの。
そこで、タクシーを使わずに行ける経路を探すためにネットの情報をさまざま参照するに、「松原上」というバス停留所からなら歩いて白州蒸溜所に行けるということが判明。(後にわかるのですが、松原上バス停留所の目前に白州蒸溜があります。)
ところが、「松原上」を通るバスは「韮崎」駅からしか行けないとのこと。そういうわけで、「小淵沢」駅を通り過ぎ、「韮崎」駅に降ります。ところがいざ韮崎駅まで着いてみると、なんとバスは二時間待ち。これでは予約したガイドツアーに間に合いません。仕方なく、小淵沢駅まで電車で戻ります。
小淵沢駅から白州蒸溜所へ(徒歩で)
小淵沢駅からタクシーを使うか悩みましたが、白州蒸溜所のテロワール(周辺の自然環境や立地条件)の確認と節約を兼ねて、徒歩で行くことにしました。
結果、歩行者の利用が全く想定されていない道路を一時間以上歩くことになり相当疲れましたが、道中で麦が自生している様子を発見したり、(白州蒸溜所に輸送されるモルトがたたまたま落ちて発芽した?と思ったけど六条大麦なのでおそらく違いますね)橋の上から清流を眺めたりなど、旅情を楽しめるポイントがたくさんあり、結果としてとてもエンジョイできました。
ただ、何度も言うように相当疲れるのでオススメはしません。さらに言うと、隣をゆうゆうと行き交うタクシーからの(なんでこの人はこんな道を歩いてるんだろう)という目線が気になります。
雨に濡れながらなんとか徒歩でいくと、想像よりずっと奥に受付があります。受付では交通手段を聞かれますので、素直に「駅から徒歩」と書いたらめちゃくちゃ驚いて労をねぎらってくれました。
帰りは是非タクシーをお使いになって、とのことなので、お言葉にしたがって帰りではタクシーを使いました。
白州蒸溜所内のレストランで食事
簡単に説明を受けると、いよいよ蒸溜所の中に入ります。鬱蒼とした森、森、森。多くはアカマツ、一部はサクラなども植えてあるそうです。雨が降っていたため、森の湿度もしっかり感じられ、当然さまざまな森の香を嗅ぎ分けることができました。
上諏訪の民宿の朝食がボリュームたっぷりだったので、1時間以上歩いた後と言っても、さほどお腹は空いていません。
とはいえ、蒸溜所の公開時間まで時間はあるし、テイスティング前に空きっ腹は解消しておきたいという思惑で、先にレストランに向かいます。
野菜たっぷりの蒸し物の定食がありましたが売り切れで、仕方なくほうとうの麺をつけ麺風にして食べるものを選びました。
全体に少ししょっぱい気がしましたが、恐らくハイボールに合わせる意図があったのでしょう。うまいのは確かです。
スタッフさんの対応も丁寧で好感が持てます。何より、森に面したテラス席のロケーションは最高です。本当に森の一部になって食事をしているような感覚になります。
白州蒸溜所のガイドツアー
さて、食事を済ませた後は、ガイドツアーの待ち合わせ場所である、キルンを模したウイスキー博物館の1階で座って待ちます。
たまたま運が悪かったのか、ガイド中にもベラベラ大声で話すグループが複数あり、なかなかガイドさんのお話が聞き取れません。仕方なくガイドさんの近くをキープして詳細に話しをうかがいます。
ガイドさんは、キャビンアテンダントのような身だしなみで非常に清潔感があり、スコットランドを意識したタータンチェック柄のスカートが印象的。
佐藤さんという方が担当でしたが、快活に、明快に、かつ質問にもたいへん親切にご対応いただけるので、すばらしく素敵な方でした。
概要説明のあと、まず糖化槽(マッシュタン)と発酵槽(ウォッシュバック)のある棟に案内されます。建物に向かう途中の道でも、森の香りに混じってほのかに、焼きたてのパンのようなイースト発酵の香りが顔を出します。
マッシュタンの大きさは信州マルス蒸溜所よりふた回り、宮城峡蒸溜所よりひと回りほど大きく、非常に存在感があります。本日はマッシュタンの洗浄中で、轟音が鳴り響いていました。
糖化槽のすぐ隣には、ダグラスファー(ベイマツの一種、オレゴンパインとも)で作られた発酵槽が無数に並んでいます。発酵槽にダグラスファーを用いるのは、同じくサントリー社(正確にはビームサントリー社)の配下のアードモア蒸溜所でも同様です。
糖化槽の中でも通路側の桶は、ふたの一部が透明板で作られており、発酵中のウォッシュ(麦芽を糖化して作られた麦汁をイースト菌でアルコール発酵させたビール様の蒸溜前原酒)を見ることができました。
発酵槽の素材が木桶なのは、衛生管理や温度管理、洗浄の手間などでデメリットもあるそうですが、白州の風味には欠かせないとのことで、不便を承知であえて使っているとのことです。
何かの本で、木桶の場合、乳酸菌の増殖量がステンレスに比べて圧倒的に多い、ということが書いてあったので、それが独特の風味を作るために重要なのかもしれません。
糖化槽、発酵槽があるエリアは熱気があり、とても暖かいです。熱気の主要因は、マッシュタンに混ぜる温水のボイラーと、酵母の増殖のため30度前後にキープされるウォッシュバックの熱気なのでしょう。もっとも、発酵熱がどれほど影響しているかは不明です。
さて、メインのポットスチル群は、あまりの荘厳さに声が漏れ出ます。8基が2列、合計16基です。さすがマーケティングに長けているサントリー社、ポットスチル群の奥から後光が射す構造になっており、見学エリアからの見え方もきっちり設計しているのがよくわかります。
一般的に、初留釜は再留釜はほとんど同様の形のものがセットになっているものかと思いましたが、左右、また両隣で形が全く異なるものが多く、必ずしも同じ形のものがセットになっているのではないのでしょう。
宮城峡や信州マルス蒸溜所とは異なり、非常に多様なポットスチルがあるので、原酒の複雑さは驚異です。さらに、単式蒸溜器でグレーン・ウイスキーを作ったこともあるなど、様々なチャレンジをしているとのことですから、サントリー社はここ数十年はブレンディングの自由度において、他社を圧倒する選択肢をもつことになるでしょう。
白州蒸溜所の製造見学ツアーの最後は貯蔵庫。貯蔵庫に足を踏み入れた瞬間、凄まじいウイスキー香に包まれます。
もちろん呼吸のため外気が入るとはいえ、あまりにも圧倒的な貯蔵量ですから、貯蔵庫内はエンジェルズシェアに包まれていると言っても過言ではないでしょう。
実際、簡易に数を見積もることすらできないほど、端から端まで大量に樽が並んでおり、面喰らいます。エンジェルシェアの量も大変なものでしょう。
ツアー向けの通路の鏡板には、観光客向けのデザイン(SUNTORY HAKUSHU DISTILLERYと焼き付けられている)がされていますが、少し奥に目をやると、英数字のみがラベリングされた樽ばかりです。というのは、マイナンバー同様に、ひとつひとつ別途データベース管理されているとのことでした。
筆者がこの貯蔵庫に足を踏み入れて感じたことがあります。確かに一般に言われるように、樽の位置によっても原酒の出来は変わるだろう、ということです。
よく言われることですが、実際に広大な貯蔵庫内の一部になってみると、納得度が違います。通路の奥に足を踏み入れるだけで、香りや大気中のアルコール濃さに大きな違いがあることがわかります。
貯蔵庫は高さも幅もとんでもないので、恐ろしい容積があるわけですが、その容積の中でも気体成分の構造には差があるでしょう。
例えば、窒素に比べて比較的重いとされる酸素は底に近い樽に強く作用し、一方で比較的軽い分子であるアルコールは上部の樽に強く作用する、ということもあるでしょう。
じっさいには、わかっているだけでも500以上あるとされる香味成分が変数として細かく関わってくるわけですから、さらに複雑に、しかし明らかな傾向を持って原酒の出来を左右することでしょう。
白州蒸溜所でのテイスティング体験
さて、白州蒸溜所のガイドツアーの最後はテイスティング体験です。ホワイトオーク原酒と、ライトリーピーテッド原酒、そして製品の白州ノンエイジ、そしてハイボール自作セットなどが並べられています。
テイスティンググラスの使い方、トゥワイスアップの作り方、ハイボールの作り方など、詳しく説明してくれます。
またテイスティング結果の感想の共有など、普段ウイスキーを飲みなれない方でも非常に楽しくウイスキーを楽しむことができます。(なお、ここでのグラスの詳細なテイスティングは、別途更新する記事にて詳しく述べたいと思います。)
テイスティングの後は質問タイムで、ガイドの佐藤さんに詳しくお話をうかがうことができました。公開可能な情報をかいつまんで書くと、
- 山崎、白州蒸溜所ともに麦芽の乾燥は行っていない。粉砕からが製造工程。
- 製麦済みのものをスコットランドのモルトスターから買い付けている。モルトスターの会社名については明言できない。
- ピーテッドモルトに使われるピートについては明言できない。(海沿いのピートと内地のピートでは大きく性質が異なることを踏まえての質問でしたが、モルトスターが使うピートに対してサントリー社が関与することができないのか、あるいは単純に秘密なのかわかりません。)
- 連続式蒸溜器は白州にもあるがツアーでの一般公開はしていない。グレーン・ウイスキーは主には知多工場で生産されている。
- 白州蒸溜所は標高が高いので、実質的に軽い減圧蒸溜であると言える。(これは信州マルス蒸溜所と同様の理屈。)
- ノンエイジ銘柄が出ているように、原酒不足による影響が出てきている。これはウイスキー需要の上昇が想定を超えたことが主要因だが、操業停止期間があったことも大きく影響している。
といったお話が聞けました。ともかく、上記のような、素人からの答えにくい質問にも誠実に答えてくださったガイドの佐藤さんのプロ意識には頭が下がります。ありがとうございました。
白州蒸溜所の売店
売店では、少し気になっていた、響ブランドの最新のテイスティンググラスの取扱いは無く、残念。
まあ、先日、500円で買える品質とはいえ、アードベッグブランドのテイスティンググラスを先日入手していたので、家で飲む際のグラスには困りはしないので良しとしました。
売店で筆者が魅力に感じたものとしては、樽材で作られたコースターやボールペンなど。他にも実用的で愛着が湧きそうなものも取り扱われており、素直に買い物を楽しめます。
蒸溜所限定ウイスキーは、白州ノンエイジがシリアルナンバー付きで売られている程度。コレクターズアイテムとして良いと思いますが、同じものを先ほどテイスティングしたばかりなので、単純に味わう観点ではあまり魅力に感じられず。
白州蒸溜所からの帰路
上記の他の見どころとして蒸溜所内のバーがあります。珍しいお酒を手頃な金額で飲めるということで非常に評判が高く、楽しみにしていたのですが、今回は時間の都合と、帰路に関して不安があったので行けませんでした。
白州蒸溜所には、原酒がしっかり熟成されたころを見計らって再訪するつもりですから、次回こそはバーにも足を運んでみたいと思います。
帰りは雨の勢いも少し強くなっており、また一時間あるいて小淵沢駅まで戻っても帰りの電車を一時間ほど待つことになる中途半端な状態だったので、仕方なくタクシーを利用。
白州蒸溜所の受付のデスクに、小淵沢駅の時刻表と、小淵沢タクシーへの連絡先がありますので、帰りの際に困ったらそちらをご覧ください。
ちなみに私は、白州蒸溜所に最も近い国道まで降り、そこの「松原上」というバス停の待ち合わせ用の建物で雨をしのぎ、そこまでタクシーに来てもらいました(バスは2時間待ちくらいでした)。
それで小淵沢駅までタクシー代が1900円。帰りは駅まで長距離の上り坂になるので、徒歩は非現実、というか無茶です。
そんな無茶と比較すればタクシー代も高くはありません。このあと、小淵沢駅から中央線を乗り継いで3時間ほどで都内まで戻り、無事帰宅しました。
さまざまな体験ができる白州蒸溜所、おすすめです!ぜひ足を運んでみてください。
白州蒸溜所の基礎情報
名称 | 白州蒸溜所 |
創業 | 1973年(山崎蒸溜所の竣工から50年後) キリンの富士御殿場蒸溜所と同じ年。 |
所有者 | サントリー株式会社 |
HP | サントリー白州蒸溜所 |
設備 | ポットスチル16基。初留はすべて直火。 小規模のカフェスチル。 オレゴンパイン製の発酵槽。 ラック式の貯蔵庫。 |
特記事項 | 「森」を強調。「南アルプスの天然水」が仕込み水。 標高約700mによる実質的な減圧蒸溜。 |
住所 | 山梨県北杜市白州町鳥原2913-1 |
アクセス | JR「小淵沢」駅から無料シャトルバス(土日) 小淵沢駅からタクシーで10分 |