ジェムソン(Jameson)のテイスティングイベントのお誘い
以前の記事でご紹介した、ジェムソンのイベントで知り合ったジェムソンアンバサダーのEmiとConorのお誘いを受け、南青山のバーNARFにお邪魔してきました。
主目的は、アイリッシュ・ウイスキーとして世界で一番売れている銘柄であるジェムソンを分析的に知るための試飲です。アイリッシュ・ウイスキーの歴史から、ジェムソンの製法、そしてカクテルについて、幅広く教えていただきました。会話調でお届けします。(実際の会話の半分近くは英語で話しているので、翻訳がわかりづらいところがあるかもしれませんがご容赦ください)
アイリッシュ・ウイスキーの歴史
Emi
実はウイスキーの歴史は、スコットランドよりもアイルランドの方が早いと言われています。今はアイルランドには稼働している蒸溜所は4つしかありませんが、昔は数えきれないほどの蒸溜所がありました。
生産量もマーケットシェアも、他国のウイスキーに比べて圧倒的でした。ところが、3つの要因で廃れてしまったんです。わかりますか?
–まずひとつは、禁酒法がありますよね。あとはなんだろう。。。
Emi
さすがですね!禁酒法でアメリカのマーケットが激減したのは正解です。
もう一つの要因として、独立戦争があります。アイルランドが英国から独立する際に、対抗措置として諸外国からアイリッシュ・ウイスキーの輸入制限がとられ、マーケットの大部分を失ってしまいました。
そして決定打になったのは第二次世界大戦です。世界中でウイスキー需要が冷え込み、さらに痛手を受けることになりました。
–なるほど!それは大変な時代だったんですね。
Emi
そんななか、ジェムソンは冒険者としての精神を持ち続けることで発展してきました。創業者のジョン・ジェイムソンは船で海賊を蹴散らしたと言われる勇敢な人物で、Sine Metu、日本語でいうと「恐れを抱くな」という言葉を身上とし、その言葉はいまでもジェイムソン家の家訓とされています。その船と、Sine Metuは、Jamesonのボトルにはすべて表記されています。
–確かに、すべてのボトルにすべてありますね!おもしろい!
ジェムソンの製法について
Emi
では、次はアイリッシュ・ウイスキー、特にJamesonの作り方について説明します。
スコットランドのシングルモルトウイスキーと異なり、麦芽(malted barley)だけでなく、クリーミィさを出すためのコーンと、麦(un-malted barley)を使います。
麦(un-malted barley)を使うことで、より麦の深い味わいが出るんです。実物を試食してみますか?麦は硬いので食べられないですが、香りだけでも。
–(麦芽を食べて)うん。ちょっと甘い感じがしますね。
Emi
麦芽が味の決め手の一つになっています。ではまず、コーンを蒸溜したものを試してみてください。
–すごくライトですね。癖がないというか。甘さも感じられます。これは熟成してないんですか?
Emi
熟成してないですよ。
–その割に、すごくスムースで飲みやすいですね!以前、ジョージアムーンという、30日未満しか熟成されていないコーン・ウイスキーを飲んだ時は、あまりにも刺々しくて、毒のように感じたものですが、これはすごく飲みやすいです。
EMI
刺々しさがないのは、もしかしたら三回蒸溜していることが要因かもしれないですね!
次は、モルトを蒸溜したものを試してみてください。
–これはすごくリッチですね!味の奥行き、深み、どれもコーンを蒸溜したものより豊かに感じます。さっき食べた麦芽の香りもしっかりありますね。
Emi
そう、麦芽はリッチで美味しいんです。ですが、それだけだと味が単純になってしまいます。こうしたさまざまな穀物からできた原酒をブレンドするからこそ良いウイスキーが作られるのです。実は、ジェムソンが作られるミドルトン蒸溜所の設備であれば、シングルモルト・ウイスキーを作れます。にもかかわらず、ミドルトン蒸溜所でシングルモルトを作っていないのは、複数の穀物を使うことによって作られる味に自信があるからなのです。
–それは面白いですね!
Emi
つぎは、こうした原酒を熟成させる樽についてご説明しますね。
ジェムソンでは、バーボン樽とシェリー樽を用いて熟成させます。樽のサンプルがあるので嗅いでみてください!もうほとんど香りは残ってないけど・・・
–うん。無臭ですね笑
Emi
本来は、バーボン樽からは、焼いたオーク材由来のバニラのような甘い香りがし、シェリー樽からはブドウのフルーツ香がします。そうした複数の樽で熟成させることで、複雑な香りを作っているのです。
—ノンエイジのスタンダード銘柄にシェリー樽を使うのは贅沢ですね!
Emi
では、実際に完成品のJamesonを飲んでみましょう。
…そのまえに、外国の一般的なウイスキーと比較するために、ふたつのウイスキーを飲んでみましょう。
他国のウイスキーとの比較
Emi
まずは、アメリカン・ウイスキー代表のジャックダニエル(Jack Daniel’s old no.7)。これはコーンが主原料です。飲んでみて、いかがですか?
–(ジャックダニエルを口に含んで)飲み慣れた味ですね。Jim Beamなどに比べると少しリッチな感じですが、一般的なスコッチやアイリッシュ・ウイスキーと比較するとやはり甘さが際立つ印象です。
Emi
でしょう。それはやはりコーンが主体だから、その甘さが際立つんです。次は、スコッチ・ウイスキー代表のジョニーウォーカーブラックラベル(Johnnie Walker Black Label)を試してください。
–(ジョニーウォーカーを口に含んで)アメリカン・ウイスキーやアイリッシュ・ウイスキーに比較すると、やはりピーティさ、スモーキーさが全面に出てきますね。
Emi
では最後に、アイリッシュ・ウイスキーとして世界で一番売れている、ジェムソンを試してみましょう。
アイルランドでは、乾杯のことを「ソローンチェ」と呼びます。みんなで乾杯しましょう。ソローンチェ!
–(一同が乾杯し、ジェムソンを含んで)こうして改めて比較して飲むと、全然違いますね。ジャックダニエルも炭でろ過されててスムースな印象があるけど、また違ったスムースさ。
Emi
ありがとうございます!スムースなのは、やはり三回蒸溜しているからでしょう。
–香りは、ジョニー・ウォーカーのような煙たさは一切ないですね。そのぶん、他の香りが繊細に感じられる気がします。
Emi
ジェムソンは、ジョニーウォーカーと違ってピーテッド・モルトを一切使っていないから、煙たさは感じないと思います。
–麦芽とコーンの甘みが感じられますが、ジャックダニエルよりずっと控えめで品がありますね。最後に、バニラやシェリーの香りがします。
Emi
ありがとうございます。現代のアイリッシュ・ウイスキーはピートを炊き込まないぶん、それ以外の複雑な香りを楽しめるんです!日本市場ではまだ存在感は強くありませんが、ヨーロッパではアイリッシュ・ウイスキーがいま大人気なんです。
–確かに、ジェムソンは飲みやすさと奥深さを兼ねてて美味しいです。こうして分析的にテイスティングすることで、アイリッシュ・ウイスキーの良さや深さを詳しく知ることができた気がします。ありがとうございます。
Emi
どういたしまして。次は、ジェムソンの銘柄ごとの違いをテイスティングしてみましょう!次はセレクト・リザーブ(Jameson Select Reserve)を試してみてください。
–スタンダードに比べると、スパイス感が強いですね。樽由来の焦げ感、バニラ感も強いように思います。
Emi
セレクト・リザーブは、リチャー(一度使った樽材からの再度の成分溶出を助けるために樽の内部を焼きなおすこと)したバーボン樽をふんだんに使っているので、樽の香りが強いんです。
Conor
セレクト・リザーブは、ウェアハウス(樽熟成庫)の外に放置していた樽が汚れていたので、強めにリチャーして洗浄して、その樽で熟成させたらこれまでのウイスキーとは違った美味しさがでてきた、という体験がもとになってるんです。そこにも、ジェムソンのSine Metu(恐れるな)の精神が出ていますよね。
–それは面白いですね!
Emi
Sine Metuと言えば、ジェムソンが作られる新ミドルトン蒸溜所の近くの木々でとれるベリーでウイスキーのビターズを作ったこともあるんです。
–ウイスキーで作られるビターズなんて聞いたことないです!普通に売っているものなんですか?
Emi
ビターズ生産のために木々を植えているわけではないので、そう多くは作れず、非売品になっています。ジェムソンのカクテルアワードで優秀な成績をおさめたバーテンダーに賞品としてお渡ししたことはあります。
では最後に、ゴールド・リザーブ(Jameson Gold Reserve)を試してみてください。
–(ゴールド・リザーブを口に含んで)かなり熟成感がありますね。若い銘柄にありがちなアルコールの刺々しさが一切感じられないです。以前、竹鶴の21年を口にしたことがありましたが、あの時に感じた絶妙なまろやかさを感じます。
Emi
ゴールド・リザーブは樽熟成期間が20年~30年の原酒をヴァッティングしていますから、まろやかです。それなりに高いのが難点ですが。
また、ヴァージンオーク樽特有の新鮮な甘さも感じられるのではないでしょうか。
–確かに、これまでと違った、新鮮な甘いバニラ香があるような気がします。やはり熟成期間が長いだけあって、ヴァッティング原酒も「選ばれている」感覚があって非常に完成度が高く感じます。一番美味しいですね。
ジェムソンを使ったカクテル
ジェムソンはカクテルベースとしても一般的。EmiとConorsのおすすめで、ジェムソンを使ったカクテルを注文してもらいました。このあたりから会話の内容がプライベートな話が増えてきたので、会話調ではなく通常のブログ形式でお届けします。
まずは、Breakfast Sour(ブレックファーストサワー)。Whiskey Sourと呼ばれるカクテルを進化させたものだそうです。甘くて非常に飲みやすいカクテルです。
供された品を見るに、一般的な呼称としては、Whiskey Sourだと思いますが、ジェムソンをカクテルベースに使うことで名称が変わるのかもしれません。
あとの2点は、名前を聞けませんでしたが、非常に独創的なカクテル。
ひとつは、グラスに焙煎したコーヒー豆を浮かべたカクテル。”Irish Coffee”をベースにしているそうです。
香りはコーヒー豆のような香りがするのですが、口に含むとバナナの香りがするという、変わったカクテルです。
曖昧な記憶では、バナナをインフュージョンしたジェムソンを使ってるとか。
まず自分では作れない、非常におしゃれなカクテルで、生来から朴訥な私は非常に驚きました。
最後の一つは、いかにも日本人が発明しました、といった具合のカクテルで、”Old Fashioned Living Room”というもの。これは”Old Fashioned”と呼ばれるカクテルがベースになっているそうです。
金平糖とドライ蜜柑が添えてあり、それぞれを口に含んで口内で調味します。
口内調味は、味の薄いご飯に味の濃いおかずを食卓にあげ、同時にいただく食文化をもつ和食文化のお家芸ですが、カクテルでそこを追求した珍しいものだと思います。
日本の茶道における、茶菓子と抹茶のような関係です。これにもジェムソンが使われているのですから、すさまじい懐の深さです。
ジェムソンは、定期的にカクテルコンベンションを主催しているそうなので、そうしたイベントのおかげでこうしたカクテルが発達してきているのでしょう。
2016年も実施されているそうなので、また新たなカクテルが生まれるのかもしれません。楽しみです。
ジェムソンのプライベートテイスティングのまとめ
最初から最後まで、ジェムソンアンバサダーであるEmiとConorのホスト精神に癒やされました。
また、こうも深くジェムソン、もといアイリッシュ・ウイスキーをとりまく歴史とその挑戦的な文化について知ることができ、大変感動しています。
これまで正直なところ、ウイスキーといえば本場はスコッチ、最近勢いのあるのはジャパニーズ、といったイメージで、アイリッシュ・ウイスキーについては相対的に興味を割いてなかったのですが、今回さまざまなお話を聞いて、アイリッシュ・ウイスキーが大好きになりました。
みなさまも是非、ジェムソンを試してみてください!その際の乾杯の合図はぜひ、「ソローンチェ」で。
(最後に、通訳&お付き合いいただいた井上夫妻、ありがとうございました!)
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