現在、赤玉スイートワインとして販売されている赤玉ポートワイン。

赤玉ポートワイン(スイートワイン)

赤玉ポートワインとは

赤玉ポートワイン(現在の呼称は赤玉スイートワイン)とは、寿屋(現サントリー社)の酒精強化ワインです。日本のウイスキーを生む財源としての役割を果たしました。

赤玉ポートワインについて

現在、赤玉スイートワインとして販売されている赤玉ポートワイン。
現在、赤玉スイートワインとして販売されている赤玉ポートワイン。

赤玉ポートワインは、酒税法上は甘味果実酒に分類されます。現在は、ポルトガル政府の厳重広義を受け、赤玉スイートワインという名前で売られています。以後、基本的には同一のものとして、「赤玉ポートワイン」として表記を統一いたします。

容量550ml、アルコール14度で700~800円程度と、ワインの価格としては非常に手頃。

いまでは簡単に手に入る嗜好飲料ですが、寿屋が販売した当初は、体に良い健康飲料、しかもハイカラな洋酒として売りだされました。今よりは、ずっと手に入りにくい高給飲料として扱われていたものでしょう。

さて、こうした特徴のある赤玉ポートワインを開発、発売したのは、寿屋の創業者である鳥井信治郎。鳥井信治郎は、大阪府の薬種問屋、小西儀助商店にて洋酒の輸入取り扱い、薬酒調合を学びました。独立後、これまでの集大成として開発、販売したのが赤玉ポートワインでした。

大阪道修町にある小西儀助商店の社屋。鳥井信治郎もこの近辺で丁稚として仕事に駆け回っていたことだろう。
大阪道修町にある小西儀助商店の社屋。鳥井信治郎もこの近辺で丁稚として仕事に駆け回っていたことだろう。

たとえば芸者の女性に、客を取るときに赤玉ポートワインを使ってくれるように依頼したり、また火事が起きた時には赤玉ポートワインのハッピを着た若者衆をいの一番に現場にかけつけさせるなどして、とにかく泥臭い販路拡大につとめました。

販売開始の当時は、競合製品として類似の調合ワインがありましたが、製造の際の殺菌が甘く、瓶内で酵母菌が発酵してガスを産み、結果として瓶が破裂する事故がありましたが、赤玉ポートワインではそうしたことが無く、やはり品質の面でも優れていたことがうかがえます。

じっさい鳥井信治郎の品質への妥協しない姿勢は強固なもので、サッカリン全盛の時代に人工甘味料をいっさい使わず、分離製造した糖分のみを添加するなど、大変なこだわりです。

ちなみに、瓶が破裂しなかったことに関しては、製造を担っていた摂津酒造竹鶴政孝の丁寧な仕事によるものも大きかったと言われています。

ところで、赤玉ポートワインの「赤玉」は、愛国者でもあった鳥井信治郎が国旗の意匠に使われている太陽をイメージしたものと言われていますが、実は筆者はあえて異論を唱えたいと思っています。

鳥井信治郎が勤めていた小西儀助商店を取材するため道修町を実際に訪れ、薬の町として栄えた道修町の歴史資料館に入ったところ、そこには「赤玉」と名のつく薬が多数展示されていたのです。

道修町のくすりの資料館内に展示される薬。赤玉と名のつく薬が多数。
道修町のくすりの資料館内に展示される薬。赤玉と名のつく薬が多数。

つまり、当初は滋養強壮をうたう薬酒という位置づけでリリースされた商品ですから、当時の薬でよく使われていた名称である「赤玉」の薬効にあやかったのでは、と考えたわけです。

またこの道修町は「神農さま」という「張り子の虎」の祭神を大変に大事にし、いまでも奉納祭などで熱心に神事をしている地区ですから、明治の機運もあいまって、鳥井信治郎の愛国者であり宗教保守者である一面を育てたのではないか、と思います。

のちに日本初の国産本格ウイスキー、白札サントリーを売り出すさいのSUNTORYのうちの「SUN」は、赤玉ポートワインの利益に感謝して命名されたと言われています。

赤玉ポートワインが生んだ莫大な利益がなければ、鳥井信治郎が本格ウイスキー製造に踏み出すことはなかったでしょう。ゆえに、竹鶴政孝山崎蒸溜所を建設することもなく、今のニッカウヰスキーも存在しなかったかも知れません。

このように、とにかく赤玉ポートワインが歴史に与えた影響は大きいのです。

赤玉ポートワインの香りと味わい

アップルワインの外観。販売開始当時とほぼ変わらないボトルデザイン。
こちらはニッカのアップルワインの外観。販売開始当時とほぼ変わらないボトルデザイン。度数は22度と、より修正強化ワインとしての色が強い。

香りはわかりやすくスイート。日本酒のスイートではなく、ワインのスイートです。そしてキャラメルのような濃厚な甘さではなく、ラムネ菓子のような、さっぱりとして爽やかな甘さです。酸も感じます。

味わいは、当然ながらスイート。冷やしてストレートで飲んだ具合では、ダイレクトに甘みが来ますが、ニッカのアップルワインに比べると若干ながら甘さが控えめで、こちらのほうがより気軽にスイスイのめるように思います。

アルコールが14度とは思えないほどマイルドで、刺激感はほとんどありません。爽やかな酸味があります。赤ワイン特有の渋み、苦味はなく、最後まで抵抗なく飲めます。

非常に飲みやすい完成度の高い嗜好飲料です。

赤玉ポートワインの総評

日本の本格ウイスキー誕生を支えた歴史的に非常に価値が高い銘柄。凄まじい売上を生み出したきただけの素晴らしい完成度があります。ウイスキー好きの方は是非、歴史に思いを馳せながら飲んでいただきたい一本です。おすすめ!

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