宮城峡蒸溜所マイブレンド教室とは
宮城峡蒸溜所マイブレンド教室は、ニッカウヰスキーが擁する宮城峡蒸溜所で行われる、ブレンドを体験できる教室です。
マイブレンド教室は、あまりの人気で受け入れ体制が整わず、オフィシャルには開催が見送られていたそうです。
このたび、ウイスキー文化研究所のウイスキー検定合格者限定イベントとして開催されたので、これ幸いと参加してきた次第です。(余談ですが、筆者はウイスキー検定で最難関の「シングルモルト級」に運良く初回合格しています。)
すでに宮城峡蒸溜所には足を運んでおり、今回は再度の訪問になるのですが、
- 2017/3/27の新ビジターセンターオープン
- 通常は入れない場所への限定ツアー
といった企画で新しい貴重な情報が入り、たいへん幸せな訪問になりました。
限定ツアーの内容
限定ツアーで最初に通されたのはちょっとしたセミナールーム。貴重なボトルや絵画など、普通では見られない貴重な資料を目にすることができます。
ここで簡単に説明をうけたあとはさっそくツアー開始。まずはできたてのビジターセンターに向かいます。ここではニッカウヰスキーと宮城峡蒸溜所の説明をするための動画の放映や、カフェ式蒸溜器の模式図やその説明動画、ニッカウヰスキーの歴史をボトルとともに振り返ることができる展示など、見るものに事欠きません。
もちろん、本家である余市蒸溜所には敵うべくもありませんが、カフェ式蒸溜器の説明動画などはさすが宮城峡蒸溜所。ポイントによってはずっと良いところがあります。
さて、展示と動画をみたあとはテクテク歩いて敷地外に連れられます。
どうしたことだろう、と思うと、おもむろに社員の方が柵の鍵をあけ始めました。
ここでひらめきました。そうだ、これは竹鶴政孝が「ここに蒸溜所をつくる」と決めたあの伝説の場所に連れて行ってくれるのだ!
ニッカウヰスキーファンにとっては常識ですが、宮城峡蒸溜所は、養子の竹鶴威が用地を検討し、広瀬川と新川が合流するこの地を候補として挙げ、竹鶴政孝がこの川の水でブラックニッカの水割りを作って、そのうまさに「ここに第二の蒸溜所をつくる」と決めたのでした。
この新川は雪解け水であり、ミネラル分をほとんど含まないきれいな軟水で、酵母の繁殖に非常に適しています。それをブラックニッカの水割りを作って確かめたのですね。
宮城峡蒸溜所では、この新川の伏流水を仕込み水として用いております。シングルモルト宮城峡をもってくれば、ここでマザーウォーター割ができたわけですね。もったいないことをしました…。
流れる水の量が少なくなる夏には取水制限があるため、仕込み量が少なくなってしまうとのことでした。
工場で使う水には、シェルアンドチューブ型のコンデンサ(冷却器)の冷却水として使われている量がかなりあります。これらは化学変化を行わず、単に熱をもった水を返すだけなので、取水制限に計上しないでほしい、と役所に伝えていても、なかなか了承してもらえないとのことで、現場のみなさまの苦労が偲ばれます。
この左手側に映る円筒形のものがコンデンサですね。ワームタブ式の余市蒸溜所のコンデンサとは対照的ですね。
この点、空冷式のオープンワークツーラーを使うエドラダワーや、海水を冷却水として使うカリラの仕組みは、冷却には事欠かないという店で、よくできているなと感心します。
ウォッシュバックや発酵槽、ポットスチルの紹介は以前の記事に譲るとして、興味深いのは池の大岩と「たみ子桜」の紹介です。
池の大岩は、新川にあった岩を運んだもの。蒸溜所を建設した建設会社が「何かプレゼントを」と申し出たことについて、竹鶴政孝が「ではあの新川にある大岩を池に飾ってくれ」と言われて運んだものとのことです。
ところが、大岩は川の底に見えない部分が大きく、運ぶのに難儀して、ダイナマイトで岩を砕いて一部を行けに運んだそうです。その岩には藤などの植物が生い茂り、蒸溜所の池に彩りを添えています。
またもう一つ、有名なエピソードとして、蒸溜所ができた際に植えられた桜、同じ年に生まれた女の子にちなんで「たみ子桜」と名付けられた桜も敷地内にあります。
こうしたエピソードはニッカウヰスキー関連の本で語られることはありますが、実際に観られることはなく、ニッカウヰスキーにお勤めの方から実際に説明を受けられる貴重な機会でした。
またこのツアーで最も感動したのは、宮城峡蒸溜所ができた1969年当初に仕込まれたシェリーバットの紹介です。
ウイスキーというものは、時間がたてばたつほど良くなるものではありません。樽の影響が強くなれば原酒が負けて熟成の「旨いとき」を逃すことになります。
ですから、後年に残される樽は「これから伸びる」と判断された樽だけなのですね。さて、そんな選りすぐられた、1969年に仕込まれた最高の樽の紹介を受けました。
48年間、選りすぐられた樽です。ダボ穴を空けて香りだけ堪能させていただきましたが、あまりにも芳醇。これを経験できたのは僥倖でした。
これこそ芳醇。。。
マイブレンド教室の開始
さて、限定ツアーを終えたあとはセミナールームに戻り、念願のマイブレンド教室です。
席には器具一式と原酒が用意されておりまして、簡易的に説明を受けたあと、すぐにブレンド開始です。
限定ツアーが盛り上がりすぎたために時間がおしており、どんどんブレンドを試作していきます。
おおまかな流れは以下の通り。
まずはピペットを駆使して、手元の小さいメスシリンダーで20mlのブレンドを作ります。それをテイスティンググラスの中に入れてスワリングしてなじませ、香りを利いて判断。
自分が想定している香りに比較して、ピートが強ければピート原酒を減らし、シェリー香が弱いなと思えばシェリー樽原酒を増やす。バランスが悪いなと思えばベースになるグレーン原酒を増やす、といった試行錯誤を記録しながら続けていくわけですね。
今回は20分程度しか時間がなかったため、試行錯誤の回数は限られています。そこで私は先にコンセプトとブレンド名を決めてから作り出すことに決めました。
竹鶴政孝が、妻リタの死に際してスーパーニッカを捧げたように、私は竹鶴威に捧げるブレンドを目指しました(あえて敬称略しております。)
竹鶴威といえば竹鶴政孝とリタの家に迎えられた養子で、豪放磊落な政孝に比べて温厚で人当たりの良い女房役として知られた人物です。
力強くパワフルな余市原酒に比べて、ライトで繊細な宮城峡。まさに政孝と威のようではないですか!
そして、ここ宮城峡蒸溜所を候補として見つけ出したのも竹鶴威。因縁を感じます。
ブレンドで目指したのは、威の人柄を表した、やわらかく繊細な香り。
最終的に満足のいったレシピは、懐の深く全体にまとまりを生むカフェグレーン原酒をベースに、宮城峡原酒のやわらかい麦芽感がふんだんにあらわれた「モルティ&ソフト」と華やかさが出た「フルーティ&リッチ」をキーモルトとして、余市原酒の「シェリー&スイート」「ピーティ&ソルティ」を数滴ブレンドしたもの。
自分でもびっくりするくらい香り高い素晴らしいブレンデッド・ウイスキーができました。
宮城峡蒸溜所マイブレンド教室のまとめ
実際にオリジナルのブレンドが作れる、マイブレンド教室。今は受け入れ体制が整わず、ウイスキー検定合格者限定のこのようなツアーでしか開催されていないようですが、機会があれば是非ご参加ください。
一生ものの思い出が作れます。宮城峡蒸溜所マイブレンド教室、おすすめです!