グレンファークラス10年のボトル。

【ガス直火蒸溜と花の蜜】グレンファークラス10年

グレンファークラス10年は、スペイサイド・モルトに分類されるシングルモルト銘柄。ガス直火蒸溜による香り豊かな原酒が作られています。

グレンファークラス蒸溜所について

グレンファークラスの円筒形ケース。
グレンファークラスの円筒形ケース。シングルモルト10年は赤い。

グレンファークラス蒸溜所といえば、グレンフィディック蒸溜所のグラント家と同様に、昔から家族経営を続ける珍しい蒸溜所として知られています。(ちなみになんと、このグレンファークラス蒸溜所を経営している家族も、奇しくもグラント姓です。)

グレンフィデックのグラント家が、蒸溜所が周りの反対(あるいは無視や嘲笑)を押し切って、「シングルモルト」を提唱して市場に打ち出したり、また隣に所有するバルヴェニー蒸溜所でスペイサイド唯一のフロアモルティングを守り通したりしている点は、家族経営ゆえに通せる尖った判断なのかもしれません。

さて、このグレンファークラスのグラント家は、

  • ガスの直火蒸溜
  • シェリー樽をふんだんに利用するブレンド

を守り通しています。

ガス直火蒸溜は、熱の伝わり方に「良い意味でムラができる」ので、ガスの間接加熱蒸溜にくらべて、より複雑で豊かなフレーバーが生まれます。

石炭が投げ込まれる炉。正面だとものすごい熱気が来る。
石炭が投げ込まれる炉。正面だとものすごい熱気が来る。

ちなみにスチルマン(蒸溜技師)の熟練の技を要しますが、石炭による間接加熱では熱ムラに加えて強力な熱の「ゆらぎ」ができるので、さらに複雑な香味成分がうまれます。

石炭直火蒸溜は、いぜんのスコットランドでは非常に一般的な蒸溜方式でしたが効率や教育コストの問題からガス直火蒸溜、ガス間接蒸溜に切り替えられてゆき、2005年にグレンドロナック蒸溜所が石炭直火蒸溜を廃止した時点で、余市蒸溜所だけが唯一石炭直火蒸溜を続ける蒸溜所になりました。シングルモルト余市の全方位に強い香りは、この加熱方式に起因している部分が少なからずあるのです。

余市蒸留所のポットスチル群。真ん中の小さい蒸留器が第一号蒸留器。足元にあるのは補助燃料として使われる樽の廃材。
余市蒸留所のポットスチル群。真ん中の小さい蒸留器が第一号蒸留器。足元にあるのは補助燃料として使われる樽の廃材。

また、近年稼働を開始した静岡蒸溜所が「薪直火蒸溜」を採用しているそうで、その仕上がりが非常に楽しみです。

さて、加熱方式について話がそれてしまったので話を戻しますが、とにかくグレンファークラス蒸溜所がガス直火蒸溜を頑固に続けるのは意味があるということです。

また、グレンファークラス蒸溜所はシェリー樽の利用についても特筆すべきものがあります。

以前のスコットランドでは、シェリーを樽ごと輸入していた関係でシェリー樽は比較的入手しやすかったのですが、スペインがECに加入した1986年ころから樽の輸送が行われなくなり、シェリー樽が割高になってしまいました。

オズボーン・ペドロヒメネス・1827
オズボーン・ペドロヒメネス・1827。これもシェリーの一種。

マッカランやグレンドロナックをはじめ、スコットランドにおける樽熟成においてシェリー樽の重要性は非常に高いのは言うまでもありませんが、シェリー樽を使い続けるのは経営的にも厳しい判断が求められます。

マッカランがブランド毀損リスクを甘受しても、「ファインオーク」と銘打ったシェリー樽をほとんど使っていないレンジをリリースするのも、シェリー樽に比較して割安なバーボンバレルを活用したいという意図があるのでしょう。

そうしたなかで、グレンファークラス蒸溜所が頑固にシェリー樽熟成を続けているのは特筆すべきことではないでしょうか。

グレンファークラス10年の香りと味わい

グレンファークラス10年のボトル。
グレンファークラス10年のボトル。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、グレンファークラス10年のテイスティングです。まずは香りから。

グラスに鼻を近づけると、スペイサイドらしい、花の蜜の香りがふんだんに漂います。次いでほのかなピート香、ヨードというよりフェノールの、いわゆる煙の香りです。そして柑橘、熟したフルーツ、クリーム。

甘い香りというと柑橘やバニラ、蜂蜜の香りが表に出てくることが少なくありませんが、このグレンファークラス10年は花の蜜の香りが前面に出るあたり、さすがスペイサイドの銘酒ですね。

また、ピート香もかなり後の方に出てくることが多いのですが、熟したフルーツの印象より先にピートを感じるのは面白いところです。

味わいは非常にスイート、ビターとスパイスがたちますが、あわせてピートが香ります。つぎに麦芽のハスク感、穀物感があります。ストレートでも適度な飲みごたえで、加水しなくても非常に良い仕上がりです。

加水すると香りが爆発します。ふつう、他の銘柄では「広がる」とか、「のびる」「ほどける」といった印象ですが、グレンファークラス10年は爆発します。これもガス加熱蒸溜に起因するものでしょうか。

今度はフェノール様のピート香が広がり、次いで花の蜜、そして奥からドライパイナップルやドライマンゴーのような濃いフルーツ香が暴れだします。一般的には加水するとフレッシュフルーツ、もっというと洋梨系の香りが開きがちですが、グレンファークラス10年では強調されるのはあくまでピート、花の蜜、そして熟したフルーツの香り。これもやはりガス直火とシェリー樽に起因する原酒の強さなのでしょう。

グレンファークラス10年のまとめ

グレンファークラス10年は、伝統的で力強い、RPGの主人公のような頼もしい一本です。グレンファークラス蒸溜所は10年から40年、そしてカスクストレングスまで幅広いレンジを持っていますが、10年でこのレベルとは、他の年代ではどうなってしまうのでしょうか。これから他の年代を知るためにもまずはこのグレンファークラス10年からトライしてみましょう。

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