おすすめの前に、そもそもウイスキーの種類について
ひとくちにウイスキーと言っても、いろいろな種類があります。
分類の仕方ひとつとって見ても、
- 生産地別(スコッチ、アイルランド、カナディアン、アメリカン、ジャパニーズ…)
- 原料別(モルト、グレーン、コーン、ライ…)
- 混合方法別(ブレンデッド、シングルモルト、ヴァテッド、シングルカスク、ダブルマリッジ…)
などいろいろあります。
この記事では、味わい、香り左右する軸として、
大きく
- シングルモルト
- グレーンウイスキー
- ブレンデッド
の3つの観点で分類したいと思います。あえてランキング形式ではなく分類ごとですね。
…と詳細に入る前に、いまの時期のオススメランキングをご紹介。
今の時期(2021年初頭)のオススメランキング
いまの時期に第一位としておすすめするのは「ブラックニッカ」シリーズの限定銘柄、ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイート です。
ジャパニーズウイスキーメーカーの中でも、通の間では他社を圧倒する存在感を持つニッカウヰスキー社。そのお家芸である新樽原酒を活用して甘い香りを爆発させた、素晴らしい銘柄。これが2000円強で買えるなんて、ニッカウヰスキー社はどうかしてるのでは、と心配になるほどの完成度の高さ。
2016年に発売され、あまりの人気のためにすぐに売り切れてしまった「ブラックニッカ ブレンダーズスピリット」と同様にすぐに市場から消えてしまう可能性があるので早めの購入がおすすめです!
次におすすめするのは、いま勢いを増しているアイリッシュ・ウイスキーの代表的銘柄、ジェムソンがつい最近リリースした「カスクメイツ」。これはスタウトビールの香りをまとったウイスキーで、麦芽のうまみとホップのビターな香りがあらわれる素晴らしい一本で、これがなんと2000円程度で買えてしまいます。恐るべし。
シングルモルトウイスキーのおすすめ
シングルモルトウイスキーの特徴は、「複数の蒸溜所の原酒をブレンドせず、1つの蒸溜所で製造したウイスキーのみで作る」といった点です。
シングルモルトでよくある誤解は、「樽からそのまま詰められたもの」というものです。実際はそうではなく、シングルモルトといわれるウイスキーは、ひとつの蒸溜所内の複数の樽の原酒を混合して作られます。
ひとつの樽から出したものは「シングルカスク」と呼ばれ、厳密に区別されます。シングルカスクは、樽の個性がそのまま出るので、ひとつひとつに異なった味わいがあり、好き者の心を捉えてやみません。
なかでも、通常は加水されて40~45度に調整されるものを、あえて加水せずに「樽出しストレート」にしたものは、「カスクストレングス」と呼ばれ、さらに区別されます。
こうした特徴から、カスクストレングスには、瓶によって度数が異なるというおもしろい特徴があります。「ニューポット」または「ニューメイク」と呼ばれる熟成に使う原酒の度数や、樽材の個性による天使の分け前分(蒸発分)の差異などによって、樽ごとに異なる度数になるのです。
さて、長くなってしまいましたが、シングルモルトの中でもカスクストレングスは品質が良くも悪くも安定せず、どちらかというと初心者よりは上級者におすすめするものです。
ですから、初心者の方にはシングルカスクでない一般的なシングルモルトをおすすめします。
シングルモルトのロールスロイス、マッカラン
銘柄でいうと、まずおすすめするのはマッカランです。
マッカランはシングルモルトのロールスロイスと呼ばれ、スコッチウイスキーのなかでも定番のひとつ。シェリー樽熟成による気品のある香味が特徴とされています。
シェリー樽のニュアンスはありながら、独特のクセが抑えられたまろやかで気品のあるブレンド。シングルモルトの強い旨味と飲みやすさが両立しており、初心者にもオススメです。
350mlの瓶で2~3000円程度と、多少値が張りますが、凡百の安ウイスキーに散財するよりは価値ある買い物になることを保証します。
アイラモルトの女王と呼ばれる、ボウモア
次におすすめするのは、アイラモルトの女王と呼ばれるボウモアです。
ボウモアは、大麦を乾燥させるためのピート(泥炭)由来のスモーキーな香味を特徴とするアイラウイスキーを代表する蒸溜所の1つ。スコッチウイスキーの中でも歴史ある一本といえるでしょう。
8つあるアイラの蒸溜所の中でちょうど真ん中あたりに位置し、非常にバランスのとれた味わいです。価格もシングルモルトの中では平均的なので手に入れやすいのもポイント。
牡蠣に垂らして食べるのが通だとか。知り合いにも、ボウモアの牡蠣の味を知ってからボウモアしか飲まないというものがおります。
アイラ島でも南側に位置する蒸溜所には、強烈なピート香をもつラフロイグやアードベッグなど、特徴的な香味を持つものがありますので、ボウモアのあとはぜひそうした尖ったウイスキーを試してみましょう。
グレーンウイスキーのおすすめ
グレーン・ウイスキーは、トウモロコシなどの穀物を主原料とするウイスキーです。
(とはいえ糖化のためにモルト(麦芽)を入れるので、グレーン・ウイスキーといってもモルトを使っていないわけではありません。)
シングルモルトウイスキーに比したグレーンウイスキーの特徴は、味わいがライト(軽い)であることです。
ゆえに、グレーンウイスキーはサイレント・スピリッツ(静かな蒸溜酒)、大してモルトウイスキーはラウド・スピリッツ(声の大きい蒸溜酒)と呼ばれます。
グレーンウイスキーが作られている代表的な地域は、アメリカのケンタッキー州です。
同州で作られるグレーン・ウイスキーは、独立戦争の時にアメリカに味方したフランスのブルボン朝に名前をもらい、「バーボン」と呼称されるようになりました。
初心者に適したバーボン、Jim Beam
さて、そのバーボンの中でもオススメはジム・ビーム(JimBeam)です。最近SUNTORY社がM&Aしたことでも話題になったお酒。バニラやキャラメルのような香りが特徴で、雑味が非常に少なく、初心者に飲みやすいバーボンです。
他にもアーリータイムスやフォアローゼス、ワイルド・ターキー、メイカーズマークなど、定番と呼ばれるバーボンは多数ありますので、是非試してください。
なおアメリカで作られるウイスキーの多くはアイルランドの流れを汲んでおり、「whisky」ではなく「whiskey」と表記されます。(スコットランド移民が作ったバーボンもあり、それらはwhiskyと表記されます)
また「バーボン」の定義には「内側を焦がしたホワイトオークの新樽を使って貯蔵すること」という取り決めがあり、それゆえに大量の使用済み樽ができ、それがスコットランドで貯蔵ダルに使われるという樽の流れを生んでいるのも面白いところです。
ちなみに、テネシーで作られるグレーンウイスキーにも傑作があります。
アメリカの大衆文化に影響を与え続けるJack Daniels
厳密にはバーボンではなく、テネシー・ウイスキーに分類され、サトウカエデの炭で濾過(チャコールメローイング)することによるなめらかな味わいが特徴のJack Danielsです。
アメリカで「ちょっと良い酒」の代名詞として歴史があるため、映画や文学などでも取り上げられることが多いウイスキー。こちらもオススメです。
ブレンデッドウイスキーのおすすめ
ブレンデッドウイスキーの特徴は、何より飲みやすさにあります。
さきほど書いた「ラウド・スピリッツ」と「サイレント・スピリッツ」が程よい具合にブレンドされることで、非常に完成度の高いウイスキーを作ることに成功しています。
一般的には、モルト原酒3に対してグレーン原酒7の比率で混合されます。
初心者の方にオススメするのに最も無難なウイスキーでもありますので、「何から飲めばよいかわからない」という方はぜひ、まず下記のブレンデッドウイスキーを試してみましょう。
圧倒的な香り高さ、フロム・ザ・バレル
ニッカウヰスキーの傑作として知られるフロム・ザ・バレル。本物志向の力強い香りと味わい、万人に好かれる王道のブレンド、美しいデザイン、そして手頃な価格。言うことがありません。
記事の流れの都合上、ここでフロム・ザ・バレルを紹介していますが、人にウイスキーのおすすめを尋ねられてまず最初に答えるのは常にフロム・ザ・バレルです。
特徴はなんといってもアルコール度数。51.4℃もの度数があり、非常に香り立ちが良いのです。そしてその力強い度数にもかかわらず、口にすると甘くまろやかな印象があり、恐ろしくバランスがとれたブレンドになっています。
余市蒸溜所の原酒と宮城峡蒸溜所の原酒がおりなす絶妙なハーモニー。ウイスキー通はみんな大好きな一本。
価格も「この品質なのに、この金額で大丈夫なの?」ってレベルでお手頃ですので、ぜひお試しください。
初心者向けにブレンドされた、絵柄も親しみやすいBlack & White
初心者向けのブレンドというだけあって飲みやすさにかけてはズバ抜けたBlack & White。黒白のテリアの絵柄もかわいいですね。以前はブキャナンズブレンドと呼ばれていました。
酒類専門量販店にいけば比較的みつかりやすい銘柄なので是非、探してみてください。
販売数一位、粋なラベルが代名詞のジョニーウォーカー
ステッキを持って颯爽と歩く紳士の絵柄が特徴的なジョニーウォーカー。
スコッチ・ウイスキーらしいスモーキーさが身上。色によってグレードが分けられておりますが、特に黒ラベルは「贅沢なお酒」として日本を始めとしたアジア各国でも有名です。赤ラベルでも十分に個性が楽しめます。
他にも、より格上のゴールドラベル、モルト原酒だけをブレンドしてブレンデッド・モルトのグリーンラベル、期間限定品のワインカスクブレンドやトリプルグレーン、そして誰もが憧れる最上位銘柄のブルーラベルなどがあります。
傑作映画「ブレードランナー」の主人公、デッカードが愛飲する酒としても知られていますね。
スコッチのプリンスとして完成度の高さを誇るシーバスリーガル
「アイラモルトの女王」といえばボウモアですが、「スコッチのプリンス」といえばシーバスリーガル(Chivas Regal)。100年以上愛される完成度。スペイサイドの銘酒ストラスアイラをキーモルトにしたスイートな香りとドライかつクリーミィな味わいが特徴です。
スコッチの良いところを紳士的に、甘くマイルドにまとめた気品のある一本。ジョニ黒がタフな男の酒だとすると、こちらはスマートで優しい男の酒、という感じですね。
日本限定の「ミズナラエディション」もあり、そちらもオリエンタルな香りがあっておすすめです。
ラベルがダサいのは気のせいです。
ダブルマリッジによる調和のとれた味わい、ザ・フェイマスグラウス
スコットランドの国鳥である「雷鳥(グラウス)」がトレードマークの「ザ・フェイマスグラウス」。もともとは違った名称の酒でしたが、あまりの人気のために「あの雷鳥(The Grouse)の酒をくれ!」と口々に呼ぶようになり、それが正式名称になってしまった、という面白いお酒です。
(同様に、評判によって名前が変わった例としては、アイリッシュウイスキーのPaddy’sなどがありますね)
熟成済みの原酒をブレンドしたあと、再度樽内で熟成させる「ダブルマリッジ製法」が特徴。
スパイス香とほのかな甘味が素晴らしい完成度です。3000円未満で購入できる傑作ブレンデッドの一つですね。
CP高く、村上春樹にも出てくるカティサーク
帆船をモチーフにしたカティサーク。ピート香や燻製香がすくないため飲みやすさは白眉。日本でもかなり入手しやすい部類に入ります。アメリカ向けに製造されている銘柄なので、アメリカ好みのライトな味わいです。
村上春樹の作品『ねじまき島クロニクル』に出てきたことでにわかに知名度が上がりました。ストレートでゆっくり飲むというよりは、ハイボールや水割りなどにしてゴクゴク飲むのが合う、いかにもアメリカ向けらしい味わいになっています。
ウイスキーのおすすめをまとめると
長々と書きましたが、むりやり三行にまとめると、
- まずはブレンデッドから。「フロム・ザ・バレル」は最強
- シングルモルトなら定番のマッカランやボウモアを
- グレーンなら定番のJim BeamやJack Danielsを
といった具合です。
こうした基本的なところを抑えたら、日本のウイスキーやカナダのウイスキーなど、様々な酒類を試してみましょう!
追記:最近とくに気に入った銘柄
最近のんで目を見張るほどおいしかった銘柄として、ザ・グレンリベットナデューラ ファーストフィルカスクセレクションというものがあります。
これまで挙げたような、一般に、かつ継続的に手に入るスタンダード銘柄ではないのですが、もしバーなどで見かけたら絶対に頼んでほしい極上のボトルです。
バーボンが詰められていたアメリカンオークのファーストフィルカスクにザ・グレンリベットを詰めていたもので、濃密なバニラ香と、加水時のフレッシュな香りとが最高の逸品。死ぬまでに一度は飲んでほしいです!